コラム:組織づくり | ブログ・コラム

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カテゴリ:コラム:組織づくり

「静かな退職」を防ぐ、経営者にしかできないこと

2025.9.26

阪本です。

先日、「来月末で退職することになりました」と突然の告白を受けました。ベンチャーで働く30代半ばの方で、自由な雰囲気の中で裁量を持って活き活きと働いているように見えていたので、驚き半分、「やはり来る時が来たのか」という感覚もありました。この感覚、この瞬間、過去の職場でも既視感あるなあと思いつつ。

思い返すと、1年前には休日返上で新規事業の提案書を作り、「役員プレゼンがあって」と活き活きされていました。けれどもその後、「最近は決裁が降りるまでが長くて正直疲れる」「このまま頑張っても給与は変わらない気がする」と口にしていたことを思い出します。そのときはよくある愚痴だと思って聞き流してしまったのですが、それが退職を決断する心のプロセスだったのかもしれません。ご本人は次へのキャリアアップにむかってを前向きに歩み出していますが、組織づくりに関わる立場としては「もっとできることがあったのでは」と胸がざわつきます。

「静かな退職」という現象

退職そのものは一人の人生の再スタートですが、企業にとっては大きな損失です。人生を会社に縛られることはいいとは限らないしステージを変えていくことも必要な場合もあり、よりよい人生を送れることであれば良いのですが、なんだかもったいないなという現象として最近特に気になっているのが「心の退職」「静かな退職」という言葉。
実際には辞めてはいないのに、意欲や熱意を失い、「どうせ努力しても報われない」と感じてしまう。

努力しても報われないと感じると、熱意は薄れ、本業の仕事は「やりすごすもの」になっていきます。会議室では笑顔でも、心の中ではスイッチを切っている社員がいるかもしれません。これは組織にとって目に見えにくい深刻な損失です。

一度「静かな退職」モードに入ると、後から立て直すのは難しいものです。
だからこそ、「頑張っても評価されない」「報われない」という状況をつくらないことが大切です。そのために必要なのは、古典的ですがやはりコミュニケーションです。1on1ミーティング、エンゲージメント調査などを通じて、メンバーの不満や心境の変化を早期にキャッチし、ずれを修正していくこと。これは経営者や上司にしかできない役割です。

AI時代のやりがい

近年、AIに聞けば大抵の答えが返ってきます。便利である反面、「自分の仕事の意味」を見失いやすくもなりました。私たちのような仕事もより一層そうです。自分自身の体験を振り返っても、認められて自己有用感が高まればより頑張れます。人は、必要とされ、認められて初めて力を発揮できます。取引先や仲間に「あなたがいて良かった」と思われる実感こそがモチベーションを支えます。AI時代だからこそ、人との関わりの中で役割や存在価値を感じられる場づくりが一層重要になっているのだと思います。成長に本当に価値があるのかという疑問も生まれる中、自己の成長よりも、社会での有用感、関係性の質を高めていくことが人生を豊かにしていくものだと感じています。

会社や組織は人生を豊かにする道具

社員に「モーレツ社員」であることを求める時代はとっくの昔に終わりました。会社は人生を犠牲にしてまで尽くす場ではなく、一人ひとりが「ここで働いていて良かった」と思えるための道具であるべきです。人生の生活時間の中で、仕事の占める割合は高いので、やはりそこが意味ある場、幸せを感じる場でないともったいないです。

実際に、「自分の力が役に立っている」「この場で必要とされている」と感じられると、人は自然にエネルギーを注ぎます。逆に、どれだけ頑張っても評価されない、方向性が見えないとなると、静かに心が離れていきます。そうなれば、表面上は在籍していても、すでに“心の退職”に足を踏み入れているのです。

評価制度や福利厚生を整えるだけでは十分ではありません。日常の中で「自分はこの組織の一員として意味がある」と社員が実感できる仕組みや声かけがあってこそ、組織に活気が生まれます。そのような環境では自然と新しい価値や成果も生まれていくのです。

私たちがご支援している組織づくりや研修も、その一つの手段です。
経営者にしかできない「心の退職を防ぐ仕組みづくり」、そして社員が「ここで働いていて良かった」と思える組織文化を一緒に育てていきませんか。

中小企業診断士 阪本純子

組織の土壌づくりが紡ぐしなやかな経営

2025.8.11

阪本です。

近所で通っているシェア畑も4年目に入りました。農業委員も2期目に今年度から入り4年目、食育活動に加えて農業についても少しずつ学んでいます。組織の土壌づくりということを以前からお伝えはしていましたが、本物の土壌づくりをしていく中で、やはり畑も組織も土壌が大切ということを身をもって体感しています。8月からは、秋冬の作付けに入る前の土壌づくりが始まる時期です。

そして今、その土壌づくりを後押しする心強い道具がAIです。ChatGPT5もリリースされましたね。生成AIを使って、農業でいう土壌診断や生育予測のように、見えにくい状態を可視化し、改善の方向を示してくれます。

今年はトマトはだめできゅうりの方が育ちが良く。 追肥のタイミングと水やりが要因のようです

有機肥料のような遅効性の取り組み

畑では堆肥やぼかしといわれる有機物から作った有機肥料を使っています。化学肥料のような即効性はありませんが、遅効性でより改善効果があるようです。土の中でじっくりと分解され、微生物を育て、時間をかけて土を肥やします。組織でも同じように、目先の数字を動かす即効策だけでなく、理念の共有や日々の小さな承認、感謝の習慣といった遅効性の取り組みが、長期的に組織を強くします。

習慣というのは強い意志がないと続きません。形骸化しているように見えても実は組織を強くしていることがあると思います。朝礼を半年続けてみる、毎年の経営方針発表を従業員参加型で毎年継続する、早寝早起きのような習慣づけで土壌を改善し、いつの間にか離職率が下がり、豊かな関係性が育まれていくはずです。

 

AI活用ヒント

社員アンケートや面談記録をGeminiやChatGPTに入力し、『この組織の強みは?』『摩擦が生まれやすいポイントは?』と尋ねてみましょう。

※必ず個人情報や機密部分は削除・匿名化してください。法人向けの有料契約(ChatGPT Enterprise や Google Workspace Geminiなど)を利用するか、公開しても差し支えない情報だけを入力すること

が安全です。

 

水やりと間引きのバランス

最近の高温や水不足で、調整が難しかったです。畑では、水の与えすぎも不足も害になります。芽が混み合えば、間引きも必要ですがついつい躊躇してしまいます。組織でも、過干渉も放置も人の成長を妨げます。適度な関わりと役割の見直しが、健全な成長につながります。手をかけてあげるのと同時に。観察することと原因を探ることが大切です。

 

AI活用ヒント

日報や業務記録をAIに読み込ませ、『負荷が偏っている部署や人は誰か?』『この人の得意分野は?』と聞くと、役割調整のヒントが得られます。

※この際も個人が特定できる氏名や顧客情報は必ず削除してから入力してください。

 

理念があっても成果が出ない理由

理念は掲げただけでは機能しません。ホームページに載せ、朝礼で唱和しても、日々の意思決定や評価の基準に反映されなければ、現場では「理念は理念、現場は現場」と受け取られます。

以前から、経営者と従業員、そして関係する社内外の仲間と共につくるということが大切だということをお伝えはしています。ただ、経営者は「責任をとる」という役割があります。従業員の要望を聞くこと、現場の困りごとをきちんと聴くことは大切ですが、社員側には理念に沿って「責任を果たす」という役割があります。理念でフィルタリングせずに全てを受け入れると、方向性が散漫になり、資源が分散し、成果は上がりません。

理念を基準に意識決定をすること、理念をもとに優先順位をつけること、理念を行動や評価の基準に落とし込むこと、この3つがなければせっかくの土壌も収穫まで到達できませんよね。

収穫と次の種まき

肥料切れの合図は観察から 土壌改善が必要なので有機肥料を施肥します

畑では、収穫はゴールではなく次の準備の始まり。振り返りながら片づけつつ、次の土壌づくりに入らないといけません。意外に休憩の期間がないものです。経営も同じで、成果を振り返り、学びを次に活かすことが重要です。まさにPDCAサイクルを回すことでより良い成果を目指すイメージです。

AI活用ヒント

売上や顧客データをAIに渡し、『過去3年間の成長要因と、来期に伸ばすべき領域は?』と聞くと、季節や市場サイクルも踏まえた提案が得られます。

※顧客名や取引先名などの固有情報は削除してから入力してください。

 

畑も組織も、成果を生むには見えない“土壌”が命です。有機肥料のように時間をかけた取り組みと、AIによる可視化を組み合わせ、理念を軸に意思決定を重ねること。これは、経営者にしかできない仕事です。

経営者一人では気づけない景色も、経営層としてリーダーを育てることと合わせて、生成AIも日々の壁打ち相手として加えてみれば、より広く、深く見渡すことができます。小さな企業でも、「耕し、対話し、可視化する」ことで、しなやかで持続可能な組織を育てていきましょう。

※ただし、GPT5になってから人間味が減ったという投稿もあるように、ほかのAIも併用していくと良いかと思います。そのうち、hpやこういったブログも参照されなくなり、すべてAIアプリで解決してしまうと・・と私たちの仕事ももっと変化させなきゃいけないし、広告もHPの役割もまた変わってきそうなのですがね。そのあたりのAIとの共存についてもキャッチアップしていきましょう。

中小企業診断士 阪本純子

AIに頼りつつも5Sを見直してみよう

2025.6.25

費用の3/4は助成金を活用し、これからの時代に必須の生成AI・RPAの知識をお得に学べる研修はこちら↓

阪本です。

今回は古典的なテーマを取り上げてみます。

なぜ今、5Sを見直す必要があるのか?

先日、中小企業の経営者層向けに京都府の補助金に関わる生産性向上セミナーを数回開催しました。5s・3S・カイゼンの視点から生産性向上を図る取り組みをしていこうという補助金です。5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)は多くの企業で導入済みのはずですが、形だけになって効果を生んでいないケースも少なくありません。実際、「うちでは5Sはやっているつもりだけど……」という声も多く聞かれました。では “基本” と言われる5Sが、なぜ今、京都府の補助金のテーマにもなっているのか、やはり労働力不足の中、より生産性を上げようと思った時の基本となることを見直すことが意図されています。補助金は事業者に気づいてほしい行政からの意図があってのものです。

最近の補助金では、より効率化できる働き方のための環境整備に、それによる生産性向上と給料の上昇が目指されています。

セミナーでの気づき~5Sはやっている“つもり”?~

 

5Sの基本と誤解~それは単なる清掃活動ではない~

こうした気づきを受けて、セミナーでは改めて5Sの基本に立ち返りました。5Sとは整理(必要なものと不要なものを分け、不要物を捨てる)、整頓(使うものを誰もがすぐ取れる所に置く)、清掃(職場や設備を常に清潔に保ち異常を見つける)、清潔(3Sを維持して標準化する)、(決めたルールを守る習慣付け)という5つの柱からなる活動です。よく「5S=掃除」と思われがちですが、それは大きな誤解であり、5Sは単なる美化活動ではなく、職場全体の効率と安全性を高めるために不要なものを取り除き、必要なものを誰もが使いやすいよう整えるための仕組みとして取り組むものです。現場が忙しいとつい後回しにされがちな清掃も、「単に掃除すればOK」ではなく、清掃しながら機械の不具合に気づく、ホコリの蓄積を防いで故障を未然に防ぐ、といった 職場の改善活動 として捉えることが重要です。さらに「躾(しつけ)」まで含めて推進することで、決められたことを守る企業文化の醸成や人材育成にもつながっていきます。そこにチーム制を取り入れることでみんなで取り組むという意識がチームワークの醸成になります。

 

何より、5Sを正しく実践すれば作業時間の短縮やヒューマンエラー削減、転倒事故の防止、コスト削減といった多くのメリットが得られて職場の安全衛生意識も高まるんです。つまり5Sは現場をキレイにすること自体が目的ではなく、働きやすい環境づくりを通じて業務改善や安全管理に直結する基盤づくりなのだと再認識する時間となりました。

セミナーでは参加者同士でチェックリストを使って現場の状況を振り返りました。「5Sはやっているつもりだったが、見直すと抜けが多い」――例えば、倉庫の奥にはいつの間にか不要な在庫品が残ったままになっていたり、作業場の通路に一時的に置いた荷物が常態化して動線を邪魔していたりと、5Sが徹底できていない実例が次々とあります。「普段から整理整頓しているつもりでも、動線や物の配置についても、「よく考えたら無駄な動きが多い配置になっていた」など多くの現場で「5Sの基本」が意外と徹底できていない現状を見直す時間となりました。

【事例】

工具や備品の定位置管理 – 工具や治具、一つひとつに「ここに戻す」という指定位置を決め、ラベルやマークで表示します。ある製造業では、この定置管理によって「無い物が一目でわかる」状態を作り、工具探しの時間を大幅に削減することに成功しました。使ったものを所定の場所に戻すルールを徹底することで、探し物に費やすムダな時間が消え、生産性向上に直結します。

 

作業動線の見直し – 現場のレイアウトや人の動きをマップに書き出し、ムダな移動がないか検証します。先ほどの企業では、作業位置(レイアウト)を見直すことで 移動時間のムダを削減できた部署もあったそうです。頻繁に使う道具や部品は作業者の近くに置く、重い材料はなるべく移動距離を短くする位置に配置するなど、「最短・最速で仕事ができる動線」を意識したレイアウト変更がポイントです。

 

見える化の工夫 – 5Sの現場では「誰が見ても分かる」状態づくりが大切です。例えば床にテープで境界線を引いて材料置き場や通路を明示し、決められた場所以外に物が置かれていれば一目で気づけるようにします。工具棚にシルエット(型紙)を貼り、工具が欠けていればすぐ判別できるようにする会社もあります。こうした 目で見て分かる仕掛け によって、現場全員が整理整頓を維持しやすくなり、「あれがない」「どこに片付けた?」という無駄を防止できます。小さな工夫ですが、積み重ねることで大きな効率化につながります。

 

これらの他にも「5S掲示板」でビフォーアフターの写真を共有して改善意識を高める、5Sチェックリストをデジタル化して改善点を記録・分析する等、各社が創意工夫を凝らしています。大切なのは、自社の現場に合った工夫を見つけ、継続することです。

協力隊時代に事務所掲示用に作った英語バージョン

協力隊時代に事務所掲示用に作った英語バージョン

まとめ~現場改善の出発点を経営者が率先垂範する~

セミナーを通じて改めて感じたのは、5Sこそ現場改善の出発点だという原点的な事実です。どんな最新技術を導入しようとも、職場が整理整頓されていなければ本当の生産性向上は望めません。言い換えれば、5Sが徹底されて初めて問題点やムダが可視化され、さらなる改善活動(カイゼン)につながります。だからこそ、今こそ経営者自らが5Sに率先して取り組み、その 「本質的な価値」を現場に伝えること が求められます。5Sは古くて地味な取り組みに思えるかもしれませんが、必ず現場力の向上と会社全体の生産性アップにつながることを気づいていただけました。「整理・整頓・清掃・清潔・躾」――今一度この原点に立ち返る、私自身も仕事だけでなく、身の回りも気にしてみようと思います。


 

中小企業診断士 阪本純子

継続的に取り組む、しなやかな組織づくり 〜会社内外の人と関係性を紡ぐ〜

2025.5.15

阪本です。

最近、縁あって家で蚕を育て始めました。桑の葉を食べてどんどん大きくなり繭をつくっていく神秘に魅了されている最近です。

そんなこともあって「紡ぐ」という言葉の尊さを感じつつ今回のブログを書いています。

前回関係性がすべてということも伝えました。

私はこれまで、「組織づくり」や「人が辞めない会社」について継続的に発信してきました。今回はその延長として、「事業承継」をテーマに、私の考えや取り組みをお伝えします。

4月から、京都府事業承継・引継ぎ支援センターでも仕事をさせていただいています。私自身も日頃お手伝いする企業や、このブログで紹介した会社の多くが、2代目・3代目の経営者であることに改めて気づきました。創業者が現役であっても、ご家族がすでに会社で働いていたり、将来的に家族に継いでもらいたいと考えていたりするケースも多く見られます。

■ 事業承継はスタート地点

「事業承継」と聞くと、株式譲渡や代表権の移転など、形式的な手続きに目が行きがちです。しかし実際には、「承継してからが本番」なのです。

経営者が変わるというのは、企業にとって大きな転換点。特に後継者が家族や身近な従業員の場合、互いに「わかっているはず」との思い込みが、逆にコミュニケーションの摩擦を生むことがあります。

そこで重要になるのが、PMI(Post Merger Integration)の考え方です。これは単なるM&A後の手法ではなく、中小企業の事業承継においても、「経営の引き継ぎ」と「組織文化・信頼の引き継ぎ」をセットで考えるべきだと感じています。

■ 「理念への共感」から始まる新たなチームづくり

これまでにご紹介した宮田運輸さん、木村石鹸さん、井上株式会社さんなども、承継をきっかけに組織のリ・デザインを実践され、「人が辞めない会社」「関係性の良い職場」へと進化しています。

彼らの共通点は、先代から受け継いだ理念を単に継承するだけでなく、自分自身で再解釈し、それを社員と共有しなおすことで、共感を生み出している点にあります。

「理念は引き継ぐが、方法は変える」 「社員と一緒に新しい未来をつくる」

この姿勢が、社員一人ひとりに当事者意識を芽生えさせ、新しい風を組織に吹き込んでいます。

■ 「戻りたい会社」「話したくなる職場」の条件

以前、井上株式会社さんのブログ「ハッピースパイラルな世界をつくる経営」でも書きましたが、本当に魅力的な会社には「関係性の質の高さ」という共通点があります。

・役職ではなく名前で呼び合う ・カムバック制度があり、出戻り社員を歓迎する ・立候補制で新しい挑戦を促す

こうした制度や文化も、最初から存在したわけではなく、承継後の経営者が社員とともに考え、丁寧に積み上げてきた結果なのです。

ハッピーマネジメントとPMI、一見異なるものに見えますが、実はどちらも「人」と「関係性」を大切にしている点で共通しています。

だからこそ、承継は新たな「ハッピーな組織づくり」のチャンスとも言えます。

また、組織内での言葉遣いも重要です。先日お会いしたある社長は、「従業員」という言葉を避け、雇用形態に関わらずすべての人を「メンバー」と呼ぶとお話されていました。言葉一つにも、経営者の意識や会社の姿勢が表れるものだと感じます。

■ 引き継いでつながっていくには、一緒に走り出すことが大切

繋いでいくことは、「バトンを渡す」以上に、「一緒に新しいステージを創り出す」プロセスだと思います。

経営者として自分らしさを発揮し、社員との対話や信頼関係を深め、組織をしなやかにしていく。その先に、持続可能な組織の未来が見えてきます。

私自身も支援者として、経営者や組織がその一歩を踏み出す際に伴走できる存在でありたいと考えています。

経営者にしかできない組織づくりもあれば、従業員と一緒でなければ到達できない未来もあります。どのようなステージにある企業であっても、皆さんとともに組織の未来を築いていくお手伝いができれば幸いです。


 

(参考過去ブログ)

宮田運輸さん https://accelc.co.jp/blog/soshikiteam3/

https://accelc.co.jp/blog/tuzukushakai/

木村石鹸さん https://accelc.co.jp/blog/jieigata2/

中小企業診断士 阪本純子

ハッピースパイラルな世界をつくる経営

2025.3.19

阪本です。組織を良くすることは、働く人の人生を豊かにし、それが地域社会にもつながるし、組織が大きくなることよりも、関わる人たちが誇りを持てる会社であることが大切だという思いで活動しています。

これまでもいくつかの素敵な企業を紹介してきました。

支援先も含めて、紹介させていただいているような素敵な会社の共通点としては、人の良心や優しさを引き出していること、出戻りの社員がいること、経営に透明性があること、社員だけでなく地域との関係性がオープンなことなどがあげられます。

宮田運輸さん https://accelc.co.jp/blog/soshikiteam3/

https://accelc.co.jp/blog/tuzukushakai/

木村石鹸さん https://accelc.co.jp/blog/jieigata2/

今回は、1月と3月に訪問させていただいて、行政とのトークイベントを一緒に企画していただいた井上株式会社さんのお話から、組織づくりのヒントになることをまとめてみました。

「オオカミ」の変化が生んだ組織の成長

現社長が継いだ時、会社は大きな負債を抱え、倒産寸前だったそうです。
その頃の社内は、不平不満が渦巻き、悪口が飛び交う環境だったといいます。
そして、そんな中で社員同士が「オオカミ」のようになり、ギスギスしていたとか。

でも、経営の立て直しとともに、社内の空気が変わっていきました。「日常を素敵にする」ことに価値を置くと、時間の流れが変わる。社員の意識も変わる。
結果として、増収増益の会社になった。その過程がとても興味深くて、また今度発売される本を読んで深掘りしたいなと思っています。

地域を考えたら「農」になった

井上株式会社は、廃校を活用したいちご農園を運営されています。地域に根差した事業を考える中で出会った廃校。「廃校って、地域にとって大切な場所だからこそ、楽しい場所にしたい。」そんな想いから生まれたのが 「Fun×Farmer=Fanmer」 というコンセプト。
単なる農業ではなく、 地域とのつながり、楽しい場所としての農をやっておられます。学校は地域の出入り自由な場なので今もそのまま、ハウスそばのベンチでお昼寝もできます。発想の柔軟さと、地域への想いの深さに、すごく共感しました。

「毎日がちゃんとしあわせで」

経営理念には 「ちゃんと」 という言葉が入っています。
これは、社員の意見から決まったそうです。経営層からは「経営理念に“ちゃんと”って入れるの?」という声もあったとか。でも、社員の意見を大切にし、最終的にこの言葉が選ばれたそうです。

「毎日がしあわせであること」
それを大切にしている組織って、すごくいいなと思います。みんなの顔が自然で、優しくて、アイデアがどんどん出てくる組織ができていく、安心な場であみんながやさしくなれるひつじの集団とのこと。

逆算して考えることをやめる。それができるからこそ、地域のためにやることが 「今、大切なことをやる」 という姿勢につながるんだな、と感じました。

オオカミからヒツジへ

井上株式会社では、本当の自分を表現することから逃げない、「フラットな雰囲気」 があります。最初は「オオカミ」をかぶっていた人も、いつの間にかその殻を脱ぎ、本来の自分を出して働けるようになっていく。「待つこと」「戻ってきたい会社づくり」 の姿勢が、社内に自然に根付いているのがすごいです。社員同士もあだ名でもなく 役職ではなく「Call MeName」として名前で呼び合う 文化があるそうです。社長のことも「だいすけさん」と取締役も新入社員も呼んでいる、それだけで空気も柔らかく感じました。トークイベントでは1年目の社員、出戻りの社員、20年を超えている取締役の方と社長を交えてお話をお聞きしていましたが、新入社員もベテランも、みんなが対等に関わることで、自由に意見を言える環境が生まれているようでした。

戻ってきたい会社づくり

今回話を聞いた社員の方も、一度退職された方でした。入社3年で一度辞めて、他のことに挑戦。
でも、新規事業が立ち上がるタイミングで声がかかり、戻ってこられたそうです。
ただ、戻るときも 社長の独断ではなく、社内で相談。「みんなが歓迎してくれるなら」ということで、カムバックが決まったそうです。それ以降、正式に 「カムバック制度」 をつくり、今では出戻りの社員も増えているとか。

手を上げる安心感と透明性

社内のプロジェクトは 「立候補制」
でも、単に「やりたい人どうぞ」ではなく、
上司や社長がしっかりフォローする仕組みがある。だから、やりたいことに挑戦できるし、失敗しても安心。「責任は社長がとる」「チャレンジを応援する」という文化があるからこそ、アイデアが生まれる。元々は「9時-5時で働いて、給料がもらえればいい」と考えていた社員も、いつの間にか 「自分が経営者だったら?」 という視点で考えるようになっているそうです。経営数値もオープンにされていて、会社の透明性が高い。こういう環境があるからこそ、社員が主体的に動けるのだと感じました。

「関係性」がすべて

この会社で一番感じたのは、「関係性の質の高さ」。
社員同士、社長との関係性が本当にあたたかく、信頼し合っているのが伝わってきました。言葉だけでは伝えきれない、この空気感をもっと広げていきたい。そして、自分自身もこういうスパイラルをつくれるように、行動していきたいなと改めて思いました。

中小企業診断士 阪本純子