阪本です。
今回は古典的なテーマを取り上げてみます。
なぜ今、5Sを見直す必要があるのか?
先日、中小企業の経営者層向けに京都府の補助金に関わる生産性向上セミナーを数回開催しました。5s・3S・カイゼンの視点から生産性向上を図る取り組みをしていこうという補助金です。5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)は多くの企業で導入済みのはずですが、形だけになって効果を生んでいないケースも少なくありません。実際、「うちでは5Sはやっているつもりだけど……」という声も多く聞かれました。では “基本” と言われる5Sが、なぜ今、京都府の補助金のテーマにもなっているのか、やはり労働力不足の中、より生産性を上げようと思った時の基本となることを見直すことが意図されています。補助金は事業者に気づいてほしい行政からの意図があってのものです。
最近の補助金では、より効率化できる働き方のための環境整備に、それによる生産性向上と給料の上昇が目指されています。
セミナーでの気づき~5Sはやっている“つもり”?~
5Sの基本と誤解~それは単なる清掃活動ではない~
こうした気づきを受けて、セミナーでは改めて5Sの基本に立ち返りました。5Sとは整理(必要なものと不要なものを分け、不要物を捨てる)、整頓(使うものを誰もがすぐ取れる所に置く)、清掃(職場や設備を常に清潔に保ち異常を見つける)、清潔(3Sを維持して標準化する)、躾(決めたルールを守る習慣付け)という5つの柱からなる活動です。よく「5S=掃除」と思われがちですが、それは大きな誤解であり、5Sは単なる美化活動ではなく、職場全体の効率と安全性を高めるために不要なものを取り除き、必要なものを誰もが使いやすいよう整えるための仕組みとして取り組むものです。現場が忙しいとつい後回しにされがちな清掃も、「単に掃除すればOK」ではなく、清掃しながら機械の不具合に気づく、ホコリの蓄積を防いで故障を未然に防ぐ、といった 職場の改善活動 として捉えることが重要です。さらに「躾(しつけ)」まで含めて推進することで、決められたことを守る企業文化の醸成や人材育成にもつながっていきます。そこにチーム制を取り入れることでみんなで取り組むという意識がチームワークの醸成になります。
何より、5Sを正しく実践すれば作業時間の短縮やヒューマンエラー削減、転倒事故の防止、コスト削減といった多くのメリットが得られて職場の安全衛生意識も高まるんです。つまり5Sは現場をキレイにすること自体が目的ではなく、働きやすい環境づくりを通じて業務改善や安全管理に直結する基盤づくりなのだと再認識する時間となりました。
セミナーでは参加者同士でチェックリストを使って現場の状況を振り返りました。「5Sはやっているつもりだったが、見直すと抜けが多い」――例えば、倉庫の奥にはいつの間にか不要な在庫品が残ったままになっていたり、作業場の通路に一時的に置いた荷物が常態化して動線を邪魔していたりと、5Sが徹底できていない実例が次々とあります。「普段から整理整頓しているつもりでも、動線や物の配置についても、「よく考えたら無駄な動きが多い配置になっていた」など多くの現場で「5Sの基本」が意外と徹底できていない現状を見直す時間となりました。
【事例】
工具や備品の定位置管理 – 工具や治具、一つひとつに「ここに戻す」という指定位置を決め、ラベルやマークで表示します。ある製造業では、この定置管理によって「無い物が一目でわかる」状態を作り、工具探しの時間を大幅に削減することに成功しました。使ったものを所定の場所に戻すルールを徹底することで、探し物に費やすムダな時間が消え、生産性向上に直結します。
作業動線の見直し – 現場のレイアウトや人の動きをマップに書き出し、ムダな移動がないか検証します。先ほどの企業では、作業位置(レイアウト)を見直すことで 移動時間のムダを削減できた部署もあったそうです。頻繁に使う道具や部品は作業者の近くに置く、重い材料はなるべく移動距離を短くする位置に配置するなど、「最短・最速で仕事ができる動線」を意識したレイアウト変更がポイントです。
見える化の工夫 – 5Sの現場では「誰が見ても分かる」状態づくりが大切です。例えば床にテープで境界線を引いて材料置き場や通路を明示し、決められた場所以外に物が置かれていれば一目で気づけるようにします。工具棚にシルエット(型紙)を貼り、工具が欠けていればすぐ判別できるようにする会社もあります。こうした 目で見て分かる仕掛け によって、現場全員が整理整頓を維持しやすくなり、「あれがない」「どこに片付けた?」という無駄を防止できます。小さな工夫ですが、積み重ねることで大きな効率化につながります。
これらの他にも「5S掲示板」でビフォーアフターの写真を共有して改善意識を高める、5Sチェックリストをデジタル化して改善点を記録・分析する等、各社が創意工夫を凝らしています。大切なのは、自社の現場に合った工夫を見つけ、継続することです。

協力隊時代に事務所掲示用に作った英語バージョン
まとめ~現場改善の出発点を経営者が率先垂範する~
セミナーを通じて改めて感じたのは、5Sこそ現場改善の出発点だという原点的な事実です。どんな最新技術を導入しようとも、職場が整理整頓されていなければ本当の生産性向上は望めません。言い換えれば、5Sが徹底されて初めて問題点やムダが可視化され、さらなる改善活動(カイゼン)につながります。だからこそ、今こそ経営者自らが5Sに率先して取り組み、その 「本質的な価値」を現場に伝えること が求められます。5Sは古くて地味な取り組みに思えるかもしれませんが、必ず現場力の向上と会社全体の生産性アップにつながることを気づいていただけました。「整理・整頓・清掃・清潔・躾」――今一度この原点に立ち返る、私自身も仕事だけでなく、身の回りも気にしてみようと思います。
中小企業診断士 阪本純子